Yasuo Kuniyoshi Project

岡山大学大学院教育学研究科《国吉康雄記念・美術教育研究と地域創生講座》
 

ご報告

岡山大学大学院教育学研究科《国吉康雄記念・美術教育研究と地域創生講座》が、「岡山県芸術文化賞準グランプリ」を受賞しました。これは、2018年度の活動が対象となっており、国吉祭・出石国吉康雄勉強会・瀬戸内市立、栃木県立、宇城市不知火、熊本県立の各美術館での国吉康雄関連展の企画と運営などが評価されたものです。ご支援をいただいた皆様、本当にありがとうございました!!
 
公益財団法人福武教育文化振興財団様に推薦をいただき、「学生・地域との国吉祭の運営」と「国吉型対話探求型鑑賞普及展覧会の組成と運営」の二つの事業が、公益社団法人企業メセナ協議会認定のメセナ事業「THIS IS MESENAT 2019」に認定されました。

→ THIS IS MESENAT

 

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たくさんのご来場ありがとうございました!

福武コレクションと
岡山の国吉康雄コレクションについて

福武コレクションについて


 
「福武コレクション」とは福武總一郎が所蔵する国吉康雄作品および資料のことで、(1)その内訳は次のようになっている。
 

  油彩・カゼイン画  45点
  ドローイング   101点
  習作        61点
  リトグラフ     58点
  エッチング     37点
  写真       196点
  遺品        36点
  自作品写真     50点
  計        584点   (2013年6月時点)
 

 国吉が生涯に描いた油彩・カゼイン画は353点、制作したリトグラフは81点とされている(2)。現在、アメリカと日本のさまざまな美術館や個人コレクターが国吉作品を所蔵しているが、まとまった国吉作品のコレクションとしては、福武コレクションの規模が最も大きい。
この基礎となったのは、1970年代から福武書店※が収集し、1990年〜2003年にかけて同社本社ビル内の「国吉康雄美術館」で展示・公開していたコレクションである。2003年、同館が閉館した際、全点が福武總一郎によって購入され、「福武コレクション」として岡山県に寄託された。現在は岡山県立美術館にて随時公開されているほか、国内外での国吉康雄展に出展されている。
 

福武コレクションの特徴

一つめは、国吉が手がけたさまざまなジャンルを網羅していること。メインとなる油彩・カゼイン画のほか、鉛筆やインクによるドローイングや習作、リトグラフやエッチングなどの版画、そして、生前はほとんど発表されることがなかった写真も多数ある。ほか本人が愛用したイーゼルや机、作品にも登場する椅子やバンダナ、鯉のぼりなどの遺品も含まれており、画家が実際にどういう環境でどう描いていたのかを見てとることができる。
二つめの特徴は、国吉の画業のごく初期から最晩年に至るまで各年代の作品が集められていることである。国吉康雄は特定の画風に安住することなく、生涯にわたって次々にスタイルを変え続けた。今回の展覧会で行ったように、福武コレクションの作品を年代順に見ることによって、それぞれの年代の特徴がどのようなものだったのか、そしてそれが時代とともにどのように変化したのかを追うことができる。
三つめの特徴は、多様な主題の作品が含まれていることである。国吉の代表作として挙げられることの多い女性像のほか、風景画、静物画、そして画家の心の中を描いたのではないかと思われる抽象性の高い作品など、国吉が描いたさまざまなテーマが網羅されている。その中には、第二次世界大戦中の戦争ポスターの下絵も含まれており、戦争中の国吉の軌跡を示す貴重なものとなっている。
以上のように、福武コレクションでは手法も年代もテーマも幅広く収集されているため、多面的に国吉康雄という画家をとらえることができる。たとえば国吉は初期から最晩年に至るまで、さまざまな技法でサーカスの女や道化師を描いた。それらを横断的に見ることによって、彼の関心がどこに向かっていたのか、どのような精神的な深まりを見せていたのかを考えることができる。
国吉康雄は、特定のイメージによって言い表すことが難しい画家である。「視認性がない」、つまり一目見て国吉と分かる特徴がないと言われるが、逆に言うとその多面性こそが国吉の特徴であり魅力である。福武コレクションはその多面性をよく伝えるものとなっている。
 
 
また、福武コレクションには、国吉に関する膨大な文献資料が含まれている。国吉自身が書いたり語ったりした言葉、国吉について加えられた批評など、日米のあらゆる文献が収集・整理されており、研究者にとって貴重なものとなっている。
 
 
福武コレクションは、福武書店創業社長の福武哲彦と、その遺志を継いだ福武總一郎によって形成された。福武書店は1970年代から美術作品の収集を始めた。国吉に限らず「厳選主義を貫いて」集められたそれらの作品は社内に展示され、社員の心を豊かにするためのものと位置づけられていた。国吉康雄作品を収集し始めたきっかけは諸説あるが、「福武哲彦が偶然立ち寄った画廊で見かけた国吉作品が気に入り、購入を決めた」とも言われている。 やがて国吉康雄は同社のコレクションの最も大きな柱となり、前述のように本社内での「国吉康雄美術館」において、また同館の閉館後は岡山県に寄託され、主に岡山県立美術館で広く公開されている。
 
 
福武コレクションの特徴として最後に挙げられるのは、作品のクオリティの高さである。「ミスター・エース」、「逆さのテーブルとマスク」、「もの思う女」など、国吉が描いた中でも最も優れた、重要な作品が多く含まれている。
2015年、ワシントンD.C.のスミソニアン・アメリカン・ミュージアムにて国吉康雄の回顧展が開かれる。アメリカでは久しぶりの大規模な国吉展である。
この展覧会では、国吉という画家の全体像を表すため、とくに質の高い作品が慎重に選ばれている。油彩・カゼイン画50点のうち福武コレクションからは11点、ドローイング20点のうち同じく4点が出展される。
同展によってアメリカでの国吉の再評価が進むことと思われるが、ここでも福武コレクションは存在感を示すことになるだろう。


 
 
 
(1)1985年の「福武コレクションから——−国吉康雄と近代ヨーロッパの名画展」(朝日新聞社主催)に見られるように、ベネッセホールディングスが「福武書店」という社名であったころは、同社所蔵の美術作品全体を指して「福武コレクション」と呼ばれていたが、現在、この名称は「福武總一郎が所蔵する国吉康雄作品および資料」を指す。
(2)「YASUO KUNIYOSHI ネオ・アメリカン・アーティストの軌跡」福武書店1990 なおこの点数は「油彩、カゼイン、グワッシュ他」のものとして表示されている。リトグラフの点数は、YASUO KUNIYOSHI The complete Graphic Work, Richard A. Davis, Alan Wofsy Fine Arts, 1991 による。※現ベネッセホールディングス

国吉康雄と
《Mr.ACE》

国吉康雄は1889年、明治22年に岡山市出石町で生まれました。日露戦争終戦直後、16歳で渡米。労働移民だったが画家としての才能を英語教師に見出され、画家として道を歩み始める。フランスでのパスキンや藤田嗣治との交流でも知られ、ニューヨーク近代美術館が選んだアメリカを代表する画家に選ばれ、のちには全米美術家協会の初代会長やベネチア・ビエンナーレのアメリカ代表となる。教育者、人権・社会活動家としても活躍。1953年、胃がんのため死去。Mr.Aceは、国吉自身が「色に命を」という言葉と共に残した最晩年の傑作とされる。

《Mr.Ace》Yasuo KUNIYOSHI / 1952 / Oil    Fukutake Collection・OKAYAMA・JAPAN