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地域の芸術文化資源としての岡フィルと国吉康雄研究講座の活動

 

髙次秀明(岡山フィルハーモニック管弦楽団事務局長)
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才士真司(岡山大学大学院教育学研究科国吉康雄研究講座准教授・クリエイター)

 
「おらがまちのオーケストラ」であることを掲げて、岡山シンフォニーホールの改革を進める髙次事務局長と、国吉康雄をはじめとする、様々な岡山、瀬戸内の文化芸術資源とのコラボイベントを進める国吉康雄研究講座(以降国吉講座)の才士真司とが、今回の国吉祭2019を成立させた岡山の「事情」を語り合いました。

才士(以降S) 
今回、岡山シンフォニーホールさんが、岡山大学や国吉康雄というアーティストの顕彰活動である『国吉祭』とコラボしようと思ったのはどうしてなんでしょう。
 
髙次(以降T)
元々このJホールで行なっているレインボーコンサートは岡山大学とのプロジェクト。今の槇野学長になって、岡山大学色を出したいという申し入れがありました。それで岡大出身の若手の演奏家とのイベントを企画したりしているんだけど、もっと突っ込んだ芸術ジャンルや学問領域を横断するような学際的な取り組みができるかなと思い、国吉講座との企画を決めました。
 
S
こういうクラシック音楽とある意味、古典的な技法の芸術家とのコラボイベントってのはあるようでなかなかない。ただ、このJホールも、岡山フィルさんも国吉さんも、岡山の大切な地域文化資源です。このコラボは意味深い。
 
T
クラシックに関心のある層が世界的に減っていっています。演奏者が感情や愛情を表現するクラシックは、人間形成に役立つと思っている。聞いてもらえる機会を増やすために、演奏者からリスナーに歩み寄らないといけない。こういう他の芸術との関連や学術的な情報を仕入れる機会も取り入れて、音楽に触れるハードルを下げていきたい。
 
S
髙次さんの話を聞いていると改革者や越境者としてのスタンスが見える。
 
T
僕は元々行政マンだったから、改革者という意識は実はあまりない。そういう意味で言えば国吉さんこそそうでしょう。岡山が誇る人だ。改革するには越境していかなければならないということを体現している。役所でのキャリアで得た最大の価値観は「パブリックサーバントであれ」ということ。市民に奉仕するということ。市民が納得できるのが大切。岡山は保守的な考え方が強い。絵画やクラシックはこうあるべきだ的なね。もっと、国吉さんの生き方なんかを知ればいいと思う。
 
S
本当に国吉さんは面白いですけど、ただ、岡山には国吉以外にもいいものがたくさんある。金沢のある石川県より国宝、重要文化財多い。北区には文化施設も集まっていて、後楽園から雪舟、夢二、オリエント美術を鑑賞できる施設に、シンフォニホールが徒歩圏内にある。すごいポテンシャル。ただ、岡山でも顕著に文化に親しむ層が減っている。この資源を生かしきれないというか、この先の現代都市のニーズにも対応できない感じはする。だから、こういう外に出て、他団体、ジャンルとのコラボを進める岡フィルさんの取り組みはとても重要で、その分、責任も重いと考えますが。
 
T
何かを決めて、前に進むときは波風で大変。もし、プレイヤーも不満があって、お客さんが減って、スポンサーが呆れるとなれば大変なことなので、僕の責任になる。その原因を見つけられなければ身を引くしかない。ただ、今のところ、年々反応が良くなっているし、お客さんも満足度の高まっている。となれば、責任を意識したり、後ろを向くより、前を向きたい。プラスの価値を出していたら、責任より、「次何をしよう」を考えるしね。
 
S
確かにそれは前に向かう力になります。そのマインドが、岡山で文化に親しむ人たちが増えていく運動に繋がればいいな。文化の復権というか、再発見というのがないと、交響楽団や、国吉さんのコレクションの維持も難しくなる。これからの時代、あるだけというのは本当に存続が難しくなる。
 
T
でも、変化が良いと考える人ばかりじゃない。所謂、「村」の掟的なものや、色に染まっていると、居心地はいいからね。そこに新しい風が吹いてくると排除しようという動きになることだってある。才士さんも経験あるよね。
 
S
あります(笑)。
 
T
元からある人との繋がりという良さは残しつつ、新しい人、価値観をどれだけ許容できるか。それに一番反応が早いのが若い人。だから若手のプレイヤーや学生たちとたくさんコラボをしたいし、応援したい。今回、国吉講座の学生たちとのイベントも、そういう点からとても楽しみにしています。
 
S
今、欧米の文化施設では、文化の背景にある、知識や哲学を学ぼうとするとき、情報を得て、もう一度体験に戻すという作業が大切だと思います。岡山で4年間学ぶと決めた学生たちに最上の文化的体験をしてもらいたいと思って、国吉さんなんかを使って、文化的、芸術的に色々仕掛けているというのが今の僕らです。
 
T
参加する人の感覚を研ぎ澄ませる。岡山の文化に触れることで感性が開く瞬間があって、そこに学生たちが立ち会えれば強いと思う。その体験に対して、次をリリースするだけのポテンシャルは、岡山には本来ある。それが発揮できるシステムがあるといい。
 
S
はい。その通りだと思います。岡フィルやシンフォニーホールの次の活動に注目しています。今日はありがとうございました。