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国吉祭2019CARAVAN in鯉が窪

第20回岡山芸術文化賞準グランプリ
第46回岡山市文化奨励賞受賞
(公社)企業メセナ協議会事業認定事業

 
 

鯉が窪での国吉祭の開催について
 
目的
「国吉祭2019CARAVAN in鯉が窪」は、会場である「鯉が窪」地域(旧哲西町)に、国吉康雄という、接点のない岡山の文化芸術資源を持ち込み、「鯉が窪」地域に、古くから伝わる文化や風俗を再認識してもらうことを目的に企画されました。企画に参加した学生たちは、世代と地域の垣根を越え、新しい気づきや文化交流の機会を、新見市民とその子ども達と共有することを絶えず意識しました。
 
鯉が窪の地域資源
国吉祭を実施した「鯉が窪」は、新見市哲西町にあります。鯉が窪には、国の天然記念物に指定されている「鯉ヶ窪湿原」があり、「西の尾瀬」に例えられる湿原には、鯉ヶ窪池には多くの鯉が飼育されています。哲西町では、この「鯉」を観光資源としており、国吉祭の会場のひとつとなった「道の駅・鯉が窪」には「鯉」をモチーフとした商品や、色鮮やかな鯉のぼりが展示されています。また、新見市は「神楽」文化の継承に力を入れており、神事に使用される「神楽面」は、メイン会場となる「きらめき広場哲西」にも、常設展示されています。また、鯉が窪・道の駅にある文化伝習館は、備中神楽の継承を目的とする稽古と発表を目的として建設されたものです。
学生たちと鯉ヶ窪湿原を取材

学生たちと鯉ヶ窪湿原を取材


 
国吉康雄との関連づけ
国吉康雄は1940年代後半に作品のモチーフとして、道化の「仮面」を頻繁に描いています。また、1931年に日本に帰国した際、岡山からアメリカに持ち帰ったとされる「鯉のぼり」を作品中に描いています。私たちは、この国吉が描いた「仮面」と「鯉のぼり」を、哲西町の地域資源の一つである、「神楽面」と「鯉」に関連づけることとしました。
道の駅・鯉が窪文化伝習館に展示されている神楽面

道の駅・鯉が窪文化伝習館に展示されている神楽面


《夢》1948年・国吉康雄作

《夢》1948年・国吉康雄作


《鯉のぼり》1950年・国吉康雄作

《鯉のぼり》1950年・国吉康雄作

 

開催経緯
 
「国吉祭CARAVAN」は、高梁市吹屋ふるさと村と玉野市宇野を会場とした開催が、地域と学内において高い評価を得たため、開催の継続が決定されたものです。2019年度の開催では、各地域の中心市街地を避け、中山間地域での活動が、当初から予定されました。開催地決定には、岡山県文化振興課に労を取っていただき、きらめき広場哲西の館長で、旧哲西町の元町長、深井正氏との交渉に臨み、開催が決定いたしました。鯉が窪での国吉祭もの開催企画も、クリエイティブ・ディレクター養成講座の受講生が中心となってあたり、運営も行いました。受講生は、2019年8月から、鯉が窪を定期的を訪ね、地域の伝統祭事である、「頭打ち」に参加するなど、国吉祭を企画、運営するための取材活動と、地域住民との交流を重ねました。また、10月に開催した「国吉祭2019×Jホールレインボーコンサート音楽と辿る国吉康雄の旅路」でのワークショップブースを改善し、一度に多くの参加者がワークショップを体験できるようにし、当日のスタッフも、クリエイティブ・ディレクター養成講座の受講生以外の岡山大学生にも、受講生が声をかけ、また、これまでのクリエイティブ・ディレクター養成講座の受講生も参加することで運営体制を強化しました。
皇大神社で行われた頭打ちの様子

皇大神社で行われた頭打ちの様子

 

工作ワークショップ
 
「国吉祭2019×Jホールレインボーコンサート音楽と辿る国吉康雄の旅路」で実施した「お面ワークショップ」、「額装ワークショップ」、「ランプシェードワークショップ」に加え、クリエイティブ・ディレクター養成講座の受講生で、教育学部美術専攻の学生が考案した「メッセージカード作り」と、子供たちに季節を感じてもらうための「スノードーム作り」が新しいプログラムとして追加されました。
ワークショップ会場

ワークショップ会場


お面ワークショップ

お面ワークショップ


額装ワークショップ

額装ワークショップ


 
メッセージカード作り
このワークショップは図のように「国吉祭2019CARAVAN in鯉が窪」の広報チラシに掲載した、付録カードの表紙を作成するワークショップです。付録カードには、国吉康雄が描いた「鯉のぼり」の線画を印刷し、自分の好きな色に鯉を塗ったり、メッセージを書ける仕様としました。参加者は、作成したカードを会場に持ってくることで、様々なデコレーションを施した表紙を、大学生と共に作成し、メッセージカードを完成させることができます。また、会場では、国吉が描いた鯉以外の人物や動物も準備し、チラシの付録カードを使用しなくても、メッセージカードを作成できるようにしました。
メッセージカードを共に作成

メッセージカードを共に作成


メッセージカードと記念撮影

メッセージカードと記念撮影


 
スノードーム作り
国吉作品に登場する動物や人物をスノードーム内に配置するワークショップです。国吉作品のモチーフの印象を、国吉作品と比較させることを目的に考案されました。12月の開催てあったこともあり、スノードームの土台を、クリスマスでプレゼントを入れるような大きな靴下にし、参加者は、学生スタッフが準備した、国吉作品をモチーフとしたキャラクターに色を塗り、スノードームを完成させました。
スノードーム.

スノードーム.


 
ワークショップスペースは、30名の子供が同時に作業可能な机と椅子の数を並べ、子供が親と一緒に工作可能なスペースを確保するため、椅子と椅子の間隔を広くしました。ワークショップの種類が多く、繰り返し制作をする子供も多くいたことから、終日満席が続きました。

 

STEAM教育ワークショップ
 
STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの分野を横断した教育理念のことです。国吉康雄研究講座では、総合大学である強みを生かし、各専門学問領域の研究者と連携を図り、STEAM教育を取り入れたワークショップに取り組みました。
 
クロマトグラフィーでSTEAM体験ワークショップ
監修
石川彰彦教授(岡山大学教育学研究科有機化学研究室)
 
概要
国吉作品に見られる色彩は、その独特な色合いから「クニヨシブラウン」や「クニヨシホワイト」と呼ばれていたという記録が残っています。国吉の色彩への拘りと研究は生涯続けられ、「色に命を」という、短いエッセイも残しています。こうした「国吉の色彩」に着目した受講生が、「色」の構造を知ることのできる「クロマトグラフィーでSTEAM体験ワークショップ」を考案しました。クロマトグラフィーとは、色に溶けている物質の性質の違いを利用し、混合物を分離する方法のことで、色に関する科学的理解を深めることで、国吉作品の色彩の観察を促し、芸術作品理解に繋げようという狙いで実施されました。このプログラムの監修は、有機化学分野を専門とする石川教授に指導いただきました。石川教授は、子どもの参加を想定し、安全性を考慮した上で、有機物を使用しないことや、ペーパークロマトグラフィーの使用などもアドバイスいただきました。プログラムの進行では、クロマトグラフィーで色が分かれる様を「魔法」に例え、「カラーマジックショー」と名付けた進行と演出を導入。マジシャンの装束を身につけた学生が、各色の水性サインペンと、ろ紙を使って、クロマトグラフィーを実演しました。
クロマトグラフィーでSTEAM体験ワークショップの様子工学部の学生が仕組みについて、漫談形式で説明

クロマトグラフィーでSTEAM体験ワークショップの様子工学部の学生が仕組みについて、漫談形式で説明


クロマトグラフィについて質問する子供たちと質問に答える学生

クロマトグラフィについて質問する子供たちと質問に答える学生


  
パン作りでSTEAM教育を体験しよう!
監修
稲田佳彦教授(岡山大学教育学研究科理科教育講座) / 河田哲典教授(岡山大学教育学研究科家政教育講座)
 
概要
哲西町は、地域で収穫した米を、特殊な機械で微細粒粉にし、米粉パンの製造と販売に力を入れています。地域の小中学校の給食でも使用され、地産地消を実現しています。国吉康雄研究講座は、パンの製造工程である、捏ね、発酵、成形、焼成を、専門家の科学的な説明を受けながら作るプログラムを企画しました。パン作りは、鯉が窪道の駅でパン屋を営んでいる「こめ工房」様に協力いただき、粉の状態から5時間をかけてパンを作りました。
岡山大学の教授からパンの発酵についての説明を受けながら、粉の状態から捏ねる

岡山大学の教授からパンの発酵についての説明を受けながら、粉の状態から捏ねる


2時間かけてパンを成形

2時間かけてパンを成形


自分で作ったパンの焼き上がりを待つ参加者

自分で作ったパンの焼き上がりを待つ参加者

 

アートワークショップ
 
カゼイン絵の具ワークショップ
概要
ミスターエース展で行ったカゼイン絵の具ワークショップをベースに、初めて体験する参加者が多かったため、カゼイン絵の具で制作する時間を延ばし実施しました。参加者の中には、岡山市からの親子がいるなど、このワークショップの人気が伺えました。参加者:子ども32名/大人(子どもの付き添いを含む)43名
ワークショップの説明を受ける参加者

ワークショップの説明を受ける参加者


下地の塗ったキャンバスに絵を描く

下地の塗ったキャンバスに絵を描く


 
壁画制作プロジェクト
概要
「国吉祭2019CARAVAN in鯉が窪」企画のきっかけであり、鯉が窪の地名の由来、そして観光資源である「鯉のぼり」を、参加者で作るワークショップでした。国吉が描いた鯉の線画を、高さ2m×横幅3.5mの塩化ビニルに印刷し、国吉祭参加者と学生が一緒に壁画の制作に取り組みました。参加者は「鯉」に、色紙で作った鱗を貼りつけ、七夕の短冊のように、自分の好きな言葉、感想などを書きました。鯉のまわりには、鯉が窪地区の祭事である「頭打ち」や、伝統芸能である「神代神楽」の写真を加工したものを貼り付け、国吉が描いた鯉が、鯉が窪を泳いでいるような壁画を制作。この壁画は、現在も、きらめき広場哲西に展示されています。
説明を受け鱗を作成

説明を受け鱗を作成


 鯉の鱗を貼り付けていく

鯉の鱗を貼り付けていく


完成した鯉は会場に展示

完成した鯉は会場に展示

 

演劇体験ワークショップ
 
監修
才士真司(岡山大学教育学研究科国吉康雄研究講座)
 
概要
岡山大学演劇部が参加者と一緒に、会場内に併設されている図書館の本を読み、登場人物の気持ちを考えるワークショップを実施しました。才士准教授は、長年、東京で映画や舞台制作に携わっており、2017年に実施した、創作音楽舞台劇「老いた道化の肖像をめぐる幾つかの懸念」の企画、脚本の執筆、演出を手掛けました。使用した本は、「走れメロス」(太宰治)・「泣いた赤鬼」(浜田廣介)・「ふたりはともだち」(アーノルド・ローベル)・「よだかの星」(宮沢賢治)でした。
絵本を使った読み聞かせ

絵本を使った読み聞かせ


演劇表現を体験

演劇表現を体験

 

教育ワークショップ「みんなで国吉作品の謎を解明せよ!」
 
概要
国吉作品と国吉の経歴、社会活動を学び、参加者自身について考えるワークショップで、考案者は佐賀大学文化教育学部で学び、在学中は有明海の環境問題について若い世代の関心を高める活動を経て、岡山大学院教育学研究科で社会学を専攻している大学院生です。
 
ワークショップの工程
(1)国吉作品を2枚鑑賞
(2)鑑賞した絵画に対して事前情報なしで自分の感じたことを付箋に書き、貼り出す
(3)国吉の経歴と、同時に起きた歴史的な事象が書いてある年表を読み、「国吉はなぜこのような絵を描いたのか」を考える
(4)(1)〜(3)を経て、自分自身が思う絵を描く
 
ワークショップの目的は、(1)〜(4)の作業を通して、国吉の人生と自分を重ね合わせ、自分と地域・社会とのつながりを意識し、自己理解を深めたることでした。ワークショップは好評で、2020年度より、公益財団法人福武教育文化振興財団様の助成金事業として、岡山県内の小中学校で実施予定です。
会場の様子

会場の様子


参加者:40人以上

 

実寸大模写作品の展示
 
国吉康雄作品を鑑賞する機会を提供するために、国吉康雄作品の実寸大模写作品を展示しました。この模写作品は、2013年に広島市立大学芸術学部の学生が制作したもので、作品オーナーの許可を得て、本物の国吉康雄作品を同大学のアトリエに移送し、画材の調査を行った上で模写されました。現代を代表する洋画家である諏訪敦氏の指導のもと、実寸代で精緻に描きこまれた模写作品は、温度・湿度管理の徹底が困難な、中山間地域や教育現場などで活用されています。この模写作品と合わせて、国吉作品の複写パネルや、展覧会で使用した資料パネルなどを会場に展示しました。模写作品を使って、「国吉型・対話探求鑑賞モデル」も実施され、学生から絵画の説明を受け、学生との対話を楽しむ参加者の姿が見かけられました。
「国吉型・対話探求鑑賞モデル」を実践する学生

「国吉型・対話探求鑑賞モデル」を実践する学生

 

講演会
 
タイトル
人間的で文化の溢れる地域共生社会の持続のために
 
登壇者
才士真司
 
概要
この講演では、国吉康雄研究講座が取り組む岡山や熊本などでの事例が、どのように県や市、企業、市民など、地域に評価されたのかを紹介しながら、地域社会における文化サービスの重要性と、その積極的な運用や、文化芸術と多様な地域資源を組み合わせ、地域住民の交流を促し、活用しながら、「地域共生社会をいかに持続させるか」について講演しました。講演は岡山芸術文化賞準グランプリ・岡山市文化奨励賞W受賞記念講演として行われ、地域住民だけでなく、新見市内の美術関係者や岡山市から、多くの来場がありました。
講演会の様子

講演会の様子


来場者: 70名

会場
きらめき広場哲西・鯉が窪道の駅文化伝習館
 
会期
12月7日(土)13:00〜16:30 / 12月8日(日)10:00〜15:30

 

主催・企画
国立大学法人岡山大学大学院教育学研究科《国吉康雄記念・美術教育研究と地域創生講座》
 
共催
新見市立哲西図書館 / 哲西公民館 / NPOきらめき広場
 
製作
(一社)クニヨシパートナーズ
 
助成
(公財)福武教育文化振興財団
 
制作
教養教育科目「クリエイティブ・ディレクター養成」受講生「岡山のクリエイティブセクターの活性化を図るプログラム」自主ゼミナール
 
後援
岡山県 / 岡山県教育委員会 / 新見市教育委員会ワークショップ
 
監修
岡山大学大学院教育学研究科 / 石川彰彦教授(有機化学研究室) / 稲田佳彦教授(理科教育講座) / 河田哲典教授(家政教育講座) / 松田和子教授(芸術教育系)
 
協力
米粉パンの店こめ工房 / (株)ベネッセホールディングス / 研精堂印刷(株) / 岡山トヨタ自動車(株) / 出石国吉康雄勉強会