Yasuo Kuniyoshi Project

岡山大学大学院教育学研究科《国吉康雄研究寄付講座》

国吉康雄展
少女よ、お前の命のために走れ

期間:2016年6月3日(金)〜7月10日(日)
時間:午前10〜午後8時 【6月3日(金)のみイベント開催のため午後6時閉館】
場所:そごう美術館(そごう百貨店横浜店)
企画:国立大学法人岡山大学大学院教育学研究科《国吉康雄研究講座》
主催:そごう美術館 / 公益財団法人 福武財団 / 神奈川新聞社
後援:神奈川県教育委員会 / 横浜市教育委員会
協賛:(株)そごう・西武
協力:日本通運(株)
特別協力:国立大学法人横浜国立大学教育人間科学AE(Art Education)ゼミ


プロダクションノート / 才士真司 (本展企画者)

企画の始まり

アートの展覧会、特に絵画作品の会場では、「なのです」。だとか、「と、いわれています」というような言葉をよく見かけます。ただ、それが国吉康雄という、アーティストであり、優秀な教師でもあり、かつカリスマ的な社会活動家が残した作品について語る場合、そういった断言のような言葉を使うことが難しいと、私は考えていました。国吉は自分の作品や人生について積極的に話したがりませんでしたし、そういったことを聞かれても、ごまかしたり、煙に巻いてしまうことがよくありました。もちろん、今現在、語られている国吉像(その多くは90年代までに固定された)にも本当のこともたくさんあるでしょうし、仮にそれが情報をコントロールした推論であっても、展覧会の会場ではそれを紹介した方が来場者の皆さんの知識欲は満たされ、すっきりするでしょう。しかしそれは、その場での「とりあえずの満足」となってしまうのではないか。解説パネルなどで得たそうした情報、知識は、長く人生にとどまることになるのだろうか。そんな疑問が私のなかで、繰り返し立ち上がり、それらは私にある「問い」を提示しました。「国吉の残した作品をよく観察し、取材を行い、国吉の人生を考える」という問いです。作品は国吉康雄の生きた証ですし、アートシーンや研究者にとっては、国吉を評価するために必要なものです。ただ、作品だけの直接的な評価だけで作品を評価することは、今、時代が求めいません。どうしても国吉の生きた時代を振り返ることが必要となるのです。例えば、第一次世界大戦後の移民や難民の問題。続く大きな戦争。経済発展による貧富の格差。そして民主主義のあり方が問われた。これらが国吉の生きた時代、人類に突きつけられた難題の数々でした。そしてこの課題は現在も続き、多くの学者が、この時代と現在の類似性を指摘しています。それらを意識しながら、国吉の作品が訴えてくるメッセージを読み取ろうとしたとき、よくある『絵解き』や専門用語で『画法解説』をしてみても、何か足りません。
そこで、今回の展示企画では、結論や推論という類のものは、(極力)展示会場に持ち込まないということを心がけました。現在のこの時代、国吉の作品に触れる機会を作れるということ、国吉の時代や人生を思うことで、現代社会が抱える課題や、鑑賞者自身の感受性を確認する場作りを提案できるのでは。という一つの仮説を立てることから、この企画は始まりました。

企画のきっかけ 〜 本展の企画は横浜から旅立った16歳の国吉少年の作品と人生にスポットをあてた企画展を、若い世代に向けて発信したいという、そごう美術館からの依頼がありスタートしました。

 
 
 

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主となる作品について

哲学的なタイトルの作品たち


本展のタイトルにもなっている、《少女よ、お前の命のために走れ》という太平洋戦争の終戦の次の年(1946年)に描かれた作品をメインビジュアルとして採用。広島市立大学芸術学部油画専攻の大学院生、佐藤麗生君の制作した《少女よ、お前の命のために走れ》の制作過程4段階を同時に展示。画面のアイテムから感じる不穏な感じとは違う、色彩の豊かさ。薄く塗り重ねられた色彩の重なりを感じ、絵画保存修復家の岩井希久子氏の画面クリーニングにより取り戻した、国吉本来の色の豊かさを感じてもらえる様、展示に趣向を凝らし、より作品世界に入り込める展示を目指した。《もの思う女》は、佐藤麗生君制作の実寸大の模写作品と並べ展示。見比べることにより、タイトルと描かれた内容のアンバランスさが、時代背景や制作に込めた意図を考えると深く考えていただきたいと考えた。他にも、市民権を持たず、第二次世界大戦での敵国人であった国吉が描く1940年代後半からの鮮やかな作品たち、《安眠を妨げる夢》、《今日はマスクをつけよう》などの哲学的なタイトルの作品を要所要所に配置。会場内のパネルと合わせ、作品との対話を促す。
 

クラウン 初公開のグワッシュの大作/ブッチャーズペーパー/1948年


日本初公開の作品となりました。強制収容された日系人へのチャリティーイベントで描かれたこと。国吉研究にとって、重要な時期である、国吉が賞賛とバッシングの渦中の頃に描かれた作品として紹介しました。
 
 
《バンダナを巻いた女》とユニヴァーサル・ウーマンと呼ばれる女性像


どこか似たような、それでいて個人や人種の特定が難しい、国吉の名をスターダムに押し上げ、現在も根強い人気を誇る女性像たちを展示しました。

 
 
 

《安眠を妨げる夢》福武コレクション

展示中の《クラウン》

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展示・空間演出のポイント

  1. 展示導入部で、国吉康雄の作品「少女よ、お前の命のために走れ」というタイトルとその絵の「謎を解く」という提案を鑑賞者に行っています。以降、要所要所にこの少女のシルエットが現れ、会場を案内するという仕掛けを施しました。この問いかけは、展示プランの根幹となるテーマ(主題)でもあります。
  2. 作品を美しく展示すること心がけました。ただし、絵画保存修復家の岩井希久子さん立会いのもと、許容範囲の中での光量の中での作業を行いました。
    照明は絵の性質に合わせ、ライティングを行っています。光量と色温度の調整などです。研究や取材成果から、冬季に仕上げられた作品では色温度を高くし、アメリカで高く評価された色彩の変化と美しさが分かるように配置、展開をしました。
  3. 導入部と続く年表と遺品などを展示する区画を写真撮影可とし、情報を探し出し、収集する空間として設定。続く作品展示エリアでの探求を導くようにしました。年表は、国吉の人生に加え、日本とアメリカの出来事に加え、美術史的な動向を合わせて掲示した。
  4. 作品の解説は極力しない。
    結論や推論ではなく、岡山、アメリカでの研究・取材情報を砕けた文体で提示し、作品や国吉の生きた時代について考えることを促すような仕掛けを目指しています。
    白いパネルで各展示区画の国吉や国吉を取り巻く状況の解説。黒い、少女のシルエットが入ったパネルで、鑑賞者への問いかけを行っています。
  5. 国吉の立場(移民、学生、敵性外国人など)、取り巻く状況の変化、時代の移り変わりや要請により、その作風が変わり、メッセージ性がより強く滲み出るようになる様な作品配置を行いました。
  6. 問いかけのパネルで国吉の生きた時代と、現代の私たちが生きる時代の類似性を問いかけています。
  7. 絵画保存修復家の岩井希久子さんによる作品の修復の様子や、洋画家の諏訪敦氏監修による実寸大の模写作品が展示され、国吉の故郷、岡山での取り組みなど、現在時での国吉康雄とのつながり、関わりがわかる紹介区画が設置されています。また、アメリカのトム・ウルフ先生、国吉最晩年の生徒であるブルース・ドーフマン氏、新たに発見された「クラウン」の修復の様子を上映する映像コーナーを設置しました。
 
 
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教育連携について

今回の展示では、企画当初から学校教育機関との連携がひとつの柱になっていました。まず、岡山大学大学院教育学研究科に昨年10月に設置された「国吉康雄を中心とした美術鑑賞教育研究寄付講座」が、国吉康雄作品を使用した教育鑑賞プログラムを監修し、桐蔭学園小学部と横浜国立大学附属鎌倉小学校の小学校で出張講座を行うこととなりました。出張講座では、まず「ブラインド・トーク」を行います。ブラインドトークは、作品鑑賞と情報伝達を通して、観察能力や言語能力、コミュニケーション能力の育成を目指すもので、その進行は、
 

  1. 児童でペアをつくり、1人はアイマスクで目隠しをする。
  2. テーマの絵をもう1人は鑑賞し、相手に言葉のみでその絵を伝える。この時、目隠しをしている方は、質問をすることができる。(3分)
  3. 最後に、目隠しを外し実物の絵と、想像していた絵の違いを楽しむ。合っていた部分、違っていた部分についてお互いに話し合い、上手く伝えるためにはどうしたらいいかなどを考える。(5分程度)

 
というふうに行われ、これを目隠しをする人を交代して、何回か繰り返します。
そのあと、対象学年に応じて、下記の幾つかのパターンを学校側に提案します。
 

  1. 対話型鑑賞
  2. 探究型鑑賞
  3. 描画ワークショップ

 
aでは作品、画家の情報をこちらからは積極的に開示せず、対話を促す場づくりに終始します。実施学年によって国吉作品を変えます。これは、初期の作品と、後期の作品では、作品から受け取る情報や、内在するメッセージが違うからです。
bでは、導入部に対話型鑑賞を用いますが、国吉が活躍した当時のアメリカや世界情勢を、情報として示しながら、それらの情報を得たのち、国吉作品に対する印象が変わったかを考えます。
cでは、国吉作品の一部分を印刷した画用紙を配布し、キーワードをいくつか提示したのち、国吉作品の一部を発展させる形で描画ワークショップを行います。ポイントとしては、キーワードによる想像、そして想像から創造へ。
横浜国立大学附属鎌倉小学校での出前授業(撮影/佐々木紳)このうち、探究型鑑賞を展示プログラムに取れいれたのが、本展の展示企画となりました

出張講座の様子

ワークショップ
6月19日(日)、7月3日(日)
岡山大学大学院教育学研究科「国吉康雄を中心とした美術鑑賞教育研究寄付講座」
6月25日(土)、26日(日) 午後2時から
横浜国立大学教育人間科学部AE(Art Education)ゼミ 

 

出張講座
桐蔭学園小学部アートクラブ(3年生〜6年生)
横浜国立大学付属鎌倉小学校5クラス(3年生・5年生)
横浜国立大学教育人間科学部AE(Art Education)ゼミ

 

授業受け入れ(そごう美術館内にて講義とギャラリツアーを実施)
横浜国立大学教育人間科学部生
女子美術大学
千葉大学学芸員課程受講者

 

6月4日(土) 神奈川県美術教員向け講演会

 

 イベント


  • オープニングイベント
    • ●6月3日(金) 午後6時から 終了
    • 「国吉康雄を読み解く」
    • 千住博氏(日本画家)

  • トークイベント
    • ●6月11日(土) 午後2時から 終了
    • クロストーク「国吉を育てた画学生の同盟〜アートスチューデントリーグ・オブ・ニューヨークについて」
    • 講師:吉野美奈子氏 (彫刻家/アートスチューデントリーグ卒業生) × 才士真司氏 (「国吉康雄展」企画・演出/岡山大学准教授)

    • ●6月12日(日) 午後2時から 終了
    • クロストーク「私が国吉の修復に取り組む理由」
    • 岩井希久子氏 (絵画保存修復家) × 才士真司氏

    • ●7月2日(土) 午後2時から / 午後6時から 終了
    • 「国吉を探して〜アメリカが再発見した画家」才士真司氏

  • 映像アーカイブ公開
  • 国吉康雄研究の第一人者トム・ウルフ氏と国吉の生徒であったアーティスト、ブルース・ドーフマン氏らの
  • ロングインタビューと、絵画保存修復家の岩井希久子さんによる、国吉の大作「クラウン」り修復ドキュメントを会場内にて独占公開
  • 「クラウン」保存修復の記録映像と修復道具の展示
  • 監修:岩井希久子(絵画保存修復家)

  • ギャラリーツアーとワークショップ
  • 岡山大学大学院教育学研究科国吉康雄を中心とした美術鑑賞教育研究寄付講座と横浜国立大学教育人間科学部AE(Art Education)ゼミによるギャラリーツアー、ワークショップを開催。
  •    ●岡山大学は6月19日(日)と7月3日(日) 午後2時から → 終了しました。
  •    ●横浜国立大学は6月25日(土)と26日(日) 午後2時から → 終了しました。